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デザイン/コスト/クオリティの
3要素を
重視した会館プロデュースを実践


(株)エルブレイン[兵庫県西宮市] 


葬送儀礼の多様化は、葬祭会館のあり方にも大きな影響を与え、いま、求められているのは”売れる空間プロデュース力”だといえる。兵庫県西宮市を拠点に、東京、大阪にオフィスを構える(株)エルブレインは、まさに“売れる空間プロデュース”を実践する会社だ。今号では、同社が総合プロデュースを行なったリニューアルを事例に、「売れる空間プロデュース」づくりに迫る。




■(株)エルブレインの概要

所在地/兵庫県西宮市山口町阪神流通センター1-47

設立 /1997年 代表者/高橋泉

事業内容/輸出入貿易事業(家具及び建築資材、照明等の販売)/結婚式場、葬祭会館、ホテル、レストランなどの設計・デザイン及び空間プロデュース等のトータルサポート 

URL/http://www.l-brain.net/


 

高付加価値空間プロデュースを実践するエルブレイン

兵庫県西宮市を本拠に、東京、大阪にオフィスを構える(株)エルブレイン(社長高橋泉氏)は、アジア(主として中国、ベトナム)、欧米各国から家具や建築建材、照明器具などを直輸入し、リーズナブルな価格で提供、高付加価値の空間プロデュースを行なっている。その取引先は結婚式場、葬祭会館、ホテル、レストランなど多岐にわたる。同社の強みは、なんといってもそれぞれの施設の特徴に合わせた什器・備品の調達力だ。国内メーカーでは取り扱っていない商品はもちろん、たとえ取り扱いがあっても市場価格が高価なものでも独自ルートで安価に仕入れることができるため、結果として施主のコストアップを抑えることにつながる。いま、こうした空間プロデュース力が葬祭会館に求められている時代となった。その背景には、消費者ニーズの多様化による葬儀の小規模化や、従来の葬送に捉われることのない葬送儀礼の変革が大きく影響している。


具体的には、白木祭壇に代わる生花祭壇、音楽葬等に代表される無宗教葬の台頭である。 こうした葬送様式の多様化は、旧来の会館でとり行なうことはむずかしく、さらに、葬儀の小規模化によって、大式場ニーズは減ってきている。 言い換えれば、1990年代に建設された葬祭会館は、スクラップ&ビルドも含めた会館リニューアルも視野に入れなければならない時 代となったということだ。


女性スタッフ中心の施行で地元に愛された葬儀社からの依頼

北関東で葬祭事業を展開するA専門葬儀社は、いまから十数年前に、本業である石材との親和性が高い葬祭業界に参入。「これからは会館の時代になる」との思いから、当時、葬祭会館が1つもなかった地に自社会館をオープンした。同社の会館が誕生した年、同地は「平成の大合併」により1町2村が合併して誕生した町である。年間死亡者数は、ここ数年300人弱前後で推移している。そうしたなかで、同社の会館は、年間120~130件の葬儀を施行している。その原動力となったのが、同会館の運営を実質的に取り仕切っている同社専務取締役と女性スタッフだ。女性スタッフ中心の施行は、そのきめ細やかな心遣いが地元住民をはじめ、近隣市町村からの会葬者から評判を呼び、「うちのエリアにも会館をつくってほしい」といわれるほどの信頼関係を、この十数年の間で構築してきた。ただ、一方で「時代のニーズ変化とともに、会館のあり方も大きく変わっていく」と、当初から会館開業10年後をメドに会館のリニューアルも視野に描いていたという。


FBFを通じて出会ったエルブレイン

会館リニューアルを以前から検討していた専務が、エルブレインと出会ったのは数年前のフューネラルビジネスフェア(FBF)の出展ブースの場だ。以降、会館リニューアルのタイミングを見計らっていたものの、なかなかそのタイミングと出合うチャンスがなかったが、近隣に競合他社が葬祭会館を出店するというニュースがもたらされた。このことがきっかけとなり、以前から思い描いていた会館リニューアルに踏み出し、今年3月から4月にかけて、会館リニューアルのパートナー選定にとりかかった。そして、そのパートナーに選ばれたのが、エルブレインだ。もちろん、同社は、他の設計会社にも声かけを行なっている。そうしたなかでエルブレインが選定されたのは、「他社の提案書は、単なる図面だけでしたが、依頼時に私どもが描く会館の理想像を、パースや言葉にまとめて提案されていた」ことが決め手となったという。


今回の案件を担当したエルブレイン営業統括マネージャーである新居氏は、「ご依頼をいただき、現地で打合せをいただくなかで、スタッフの皆さんの会館に対する想いや企業理念、さらにお客様視点で現状の課題点をきちんと整理されていたことなど、女性スタッフ中心の、細やかな気遣いや優しさといったことに感銘を受けましたので、お伺いした意見をパースに落とし込み、さらに具体的なイメージを提案することで、その会社にしかないデザインを提案させていただきました」と当時を振り返る。当時の初回打合せメモが図表1だ。新居氏は、初回打合せで寄せられたスタッフの意見をもとにゾーニングイメージを膨らませていった。そんななかでも新居氏がテーマとしたのは“メリハリのある優しい空間”だ。葬儀は、短時間でさまざまな決断をし、行動しなければならないものだが、その短時間で慌ただしく進む葬儀のなかにおいても、遺族にとって「少しでもゆとりを感じてもらい、悲しみを和らげられるような優しい演出と、この会館での最後のお別れが想い出になるような印象に残るメリハリあるデザイン」に注力したという。

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限りある予算のなかで行なう「選択と集中」という決断

そうして提案されたゾーニングイメージの当初案が図表2だ。もちろん、提出された提案書にはそれぞれの諸室のイメージがきめ細やかに描かれている。しかし、会館スタッフが思い描く理想を具現化するには、相応の予算が必要となる。言い換えれば、限られた予算をどのパート(部分)に集中投資するかという決断も必要なわけだ。施主であるA社も当初は、外観を含めた全面リニューアルを思い描いていた。しかし、新居氏は「全面リニューアルにかかる投資コストと同会館を取り巻く葬儀事情とを照らし合わせると、投資回収効率がよくないとし、全面リニューアルではなく、ポイントとなる部分を優先したリニューアルを提案させていただきました」と話す。 つまり、新居氏は今回のリニューアル提案に至るまでに、同社が商圏とする高齢者人口や葬儀施行単価、さらに近隣競合の状況なども鑑みたうえで、全面リニューアルにかかる投資コストとポイントとなる部分を集中的にリニューアルする際の投資コスト、さらに、それら投資コストの回収率までも踏まえた提案を行なっているのだ。


そうしたなか、両社の打合せのなかで選択と集中のターゲットとなったのが、会葬者や遺族が時間を過ごす、式場と会食室、さらに、新設された安置室兼少人数対応の「よりそいの間」であり「キッズコーナー」である。 こうして、リニューアルプランを固めたうえで実際のリニューアル工事にとりかかったのが今年の7月ごろ。リニューアルオープンとして近隣住民にお披露目されたのが8月下旬と、約2か月で事務所、式場、新設された、よりそいの間とキッズコーナー、さらにロビー前の想い出コーナーといったリニューアルが敢行された。以上のように、すべてが今年度に入ってから、トントン拍子で進んでいった案件ではあるが、新居氏は「その背景には、専務を筆頭とするスタッフ全員の思いが一本化されていたことから、こちらとしてもコンセプトづくりやゾーニング計画がしやすかった」と語るように、会館運営に携わるオーナーサイドの意向が明確だったことが、リニューアル計画もスムーズに進んだ理由の1つとしてあげている。さらに、エルブレインは全国で設計・デザインを手がけており、フィックスされたプランに基づいた施工会社の選定もいち早く決定できるという強みがある。したがって、今回のリニューアルは、オーナーサイドと設計・デザインサイドとの間で、最も大切な「会館リニューアルコンセプトの共有」がいち早くできたからこその賜物でもあるといえる。 


スタッフの意向を反映した施設づくりを実践

実際の施設リニューアルに関するビフォーアフターについては、次ページからの写真を参考にしていただきたいが、一番苦労したのが事務所の移動だ。リニューアル期間中、会館の運営をストップさせたオーナーは、地元新聞などに「会館リニューアルのお知らせ」を告知するとともに、それでも「そちらで葬儀をしてほしい」という要望があれば、隣接する公営火葬場の併設式場を利用して葬儀をとり行なっていた。今回のリニューアルは、事務所の移動も盛り込まれていたため、会館スタッフは、工事の進捗状況に合わせて、事務所機能を移転させながら対応に当たったという。一方、新設された「よりそいの間」と「キッズコーナー」は、オーナーサイドたっての希望から生まれたものである。同エリアでは、故人と送る最後の夜は、その多くが自宅安置で、式当日に式場に移動する風習が残っている。したがって、これまでは大きな安置室は必要とされていなかった。しかし、以前から「なんらかの事情でご自宅に帰ることのできない方に対してもお応えできる諸室がほしい」という思いと「10~20人規模で送る小規模葬にも対応できる諸室としても活用したい」 との思いを具現化したのが「よりそいの間」である。一方、「キッズルーム」は、子育て世代の会葬者であっても、気兼ねなく葬儀に参列できる環境を整えたいとする、女性スタッフ一同の希望から設けられたという。


式場リニューアルのポイント

Before
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旧来の式場は、白木祭壇をメインとしたもので、式場内の椅子も十数年前に譲り受けたホテルの宴会場で使用されていた古いタイプのものだった。

After
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会館リニューアルに際し、オーナーサイドから要望のあった“映画館のようなイメージ”というキーワードをもとにデザインされた式場。 照明は数段階のパターンを入力し、式進行に合わせて、調光やスポットライトが当たる箇所をプログラミングした。以前から使用していた椅子は廃棄し、新たに肘掛けのある椅子を採用。これは、オーナーたっての希望で、着席した高齢者が離席する際に苦労して立ち上がる姿を見ていたことから、式場内に設置する座席数を減らしてでも採用にこだわった一品。

会食室リニューアルのポイント

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以前の会食室は、長テーブルを整列しただけの素っ気ないものだった。


After
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以前のテーブルを使用するのではなく、あえて円卓を採用。
これにより、離席する際、周囲に気遣いすることなくスムーズに移動ができるようになったと会葬者などから好評を得ている。
   
     
          

ロビーまわりのポイント

Before
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After
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ロビーまわりについては大幅な変更は実施していないものの、式場へ続く扉を大きく変更した。
合わせて、要望のあった想い出コーナーを設置。予算の関係上、記念館のような想い出コーナーの設置は見送られたが、スタッフがひと手間かけた想い出コーナーを演出することで温かみを演出している。
    
 

新設された「よりそいの間」

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「何らかの事情でご自宅に帰ることのできない方に対してもお応えできる諸室がほしい」という想いから設けられた遺体安置室。 数人から20人程度の小規模葬にも対応し、すでにここでの葬儀も行なっており、ニーズの先取りを行なった諸室となった。    
    
      

新設された「キッズコーナー」

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主に幼児を対象とするキッズコーナーは、女性スタッフが運営する葬祭会館ならではのアイデア。
式中、スタッフが見守りを引き受けることもあるらしいが、焼香には、できる限り参列してもらうようにしている    
    
      

その他ポイント

旧会館の天井は式場(84頁左上)にあるとおり、白を基調としたものだったが、今回のリニューアルに合わせて、それぞれ天井を塗り替えた。なお、空調設備も既存のものを流用したが、その空調機器もそれぞれの諸室の天井に合わせたカッティングシートを張ることで統一感をもたせている。



竣工後もアフターフォローを行なう総合サポート

こうして、約2か月の工期を経て生まれ変わった新生会館がお披露目されたのは、今年8月下旬のことだった。リニューアルオープンに際し、大々的な広告宣伝は行なっていなかったにも関わらず、当日は100人ほどの見学者が押し寄せ、真新しい式場や新設された「よりそいの間」「キッズコーナー」などに興味津々だったようだ。さらに、開業後の施行も順調に推移しており、リニューアル前に同会館を訪れた会葬者などから高評価を得ているという。順調な船出を迎えた新生会館だが、エルブレインは竣工後のアフターフォローにも関わっている。


具体的には、同社のWebページのリニューアルや、ロゴ作成などだ。ひと昔前であれば、竣工後、引き渡せば終わりという設計会社が多かったが、新居氏は「実は、竣工後のアフターフォローがさらに重要度を増している」と指摘する。その理由として「オーナーとの密な打合せを経て会館設計・デザインに携わった立場からすれば、開業後の販促ツール、具体的にはロゴデザインの刷新や封筒、ホームページなどもデザインコンセプトに通じたものに任せていただいたほうが、結果として、新規会館を訴求することができる」ということにほかならない。エルブレインでは、今後も、葬祭会館をはじめとする各種施設の設計・デザインはもとより、開業後のサポートを含めたトータルプロデュース、そしてブランディングで「売れる空間プロデュース」に邁進していく構えだ。